中島聡著『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』感想: 最大のパフォーマンスを引き出すために
Kindle Unlimitedで読めると知って、本書を読むためにKindle Unlimitedに登録した*1。
なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である
- 作者: 中島聡
- 出版社/メーカー: 文響社
- 発売日: 2016/06/08
- メディア: Kindle版
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著者は有名な方なので、名前や活動歴はざっくり知っていたが、少し前にハフポストに載った以下の記事を読んで、同書に興味を持った。
おおよその雰囲気はその記事からもつかめると思うが、個人的に「これは新鮮だな」と思ったところをいくつか書いておきたい。
1. 脱ラストスパート志向
とりあえず、本書の一番のテーマはこれだと思う。
仕事が終わらない人は最終盤の逆転を狙ってしまう。ギリギリまで行動を起こさず、締切り&徹夜パワーで乗り切るぜ、みたいな夢を見ては失敗する。学びがない。
著者はそうじゃなくて、与えられた時間の最初の2割でまず作業全体の8割を終わらせろ、という。
もしその時点でそこまで終わらなかったら、残り8割の時間で全体を終わらせることはできないから、と。
この2割・8割の法則じたいはどうしても直感に反するというか、さすがに極端ではと思わなくもないが、それでも深く共感するのは、そういったラストスパートのパワーに幻想を持つな、みたいなことで、その点は非常に参考になると思った。
その流れで著者は朝型生活を勧めるのだけど、ぼく自身は40を過ぎて自分が今のところ非・朝型だとつくづく感じるので、そのまま生かすことはできないものの、「1日の前半にコアタイムを持ってきて後半は流せ」という思想じたいは活用できそうだと感じた。
2. 脱マルチタスク主義
本書には「なるほど〜」「ですよね〜」と感心・納得するポイントが満載なのだけど、中でも膝を打ってしてしまったのはこれで、仕事に集中したかったら作業中は一つのことだけをやれ、という。
1日を複数の時間帯に区切り、それぞれの時間内で別の作業をするのはOKだが、一つの作業中は別のことを考えるな、と。
これはぼくの感覚にも非常にフィットする考え方で、まったく同感だが、とはいえ現実の世界ではどうしても割り込みタスクや、その他集中を拡散してしまうあれこれというのはあるもので、やはり初めからこれを意識するのとしないのとでは大きな違いが出るだろう。
また、ぼくには一方でマルチタスク主義というのか、様々な異なる作業を並行して処理する良さ、みたいなことを考えてしまうときもあって、そういうブレというかゆらぎの余地を少なくする意味でも良い指針になった。
もう一つ、これに近い発想というか考え方として、「スラック(心の余裕)を持つ」ということについても触れられていて、それも大変面白く、役立つと思った。
心の余裕を持つことで作業に集中しやすくなる、と言葉で言うのは簡単だが、実行するのはそう簡単でもない。
しかしこうして、他人がバシッと言ってくれるとそれが後押しになって今まで以上に実現しやすくなりそうだと感じる。
3. 責任感とは
本書では著者がかつて勤めたマイクロソフトや、同社のトップだったビル・ゲイツに関するエピソードもいろいろと語られるのだけど、その中でもひときわ印象的だったのが、「パーティー会場に花束を届けるようビル・ゲイツから指示された人*2」の話だった。
これについては著者による以下のブログ記事でも引用されているので、興味があればそちらを読んでほしいが、
Life is beautiful: デカルトは「困難を分割せよ」と言い、ビル・ゲイツは「問題を切り分けろ」と言った
ここで問題となっている人は、指示された通りに花が会場に届くようオーダーするのだけど、花屋の都合で届かない。
そしてこのとき、その人は自分が「花を注文しろ」と指示されたのだと解釈しているから、自分の仕事はすでに完了していて、花が会場に届かないのは「花屋の責任」だと思っている。
しかしビル・ゲイツはその人に「花を届けろ」と指示したのであって、届かなければそれは指示された人間の責任なのだという話。
この、「花を注文するまで」が仕事なのか、それとも「花を届けるまで」が仕事なのかという認識のズレというのは、本当にリアルで生々しく起こりがちな状況なので「うわ〜」と思った。
本書ではいくつもそういう「うわ〜」を感じたけど、中でも「うわ〜」度が高い話だった。
しかしまあ、「え、俺はちゃんと注文しましたけど? 悪いのは花屋ですよね」と言う人にこんな話をしたところで、それが通じるとも思えない。
この話を生かせるとすれば、自分が「自分の仕事はどこまでなのか」を考えるときだろう。
4. モックを作る
自分は締切りを守って仕事をしていても、協業者の仕事が遅れたらその影響で自分の作業も遅れてしまう。そういうときにどうするか? という話。
これまた上記の花屋の話に匹敵する「あるある」話で、読みながら「いやまじで、そういう場合ってどうしたらいいの? 教えてください!」という感じで読み進んだが、書中の回答は「モックを作る」。
言い換えると、待っている間にとりあえず自分で大ざっぱな代替物を作ってしまって、それをもとにその続きにある自分の作業を進めておく、ということ。
これまた「なるほどね〜」という感じだった。
ちなみに、本書ではこれとは別に、「物事を進めたかったら書類をまとめるとかじゃなくてとりあえず目に見える成果物、プロトタイプを作れ」みたいなことが何度も言われるのだけど、ここで言うモックはそれに似ていながらけっこう本質的に違う。
プロトタイプの話も大変有用ではあるのだけど、それ以上にぼくがこのモックの話を「すごい」「こりゃ役立つな」と思うのは、結局それも花屋の責任の話と同じで、今までぼくは他人が遅れたせいで仕事が遅れたら、「俺のせいじゃないもん。あの人が遅れたせいだもんね」と、自分の責任ではないものとして済ませようとしていたと思われ、それは感じ方としては自然だが、現実的にはそうじゃない、ちゃんとやりようがあるのだ、と気付かされたという点で大きな話だった。
5. 認知資源
ふたたびビル・ゲイツの話。ビル・ゲイツは社員から何か専門的な話を聞くときに、対象の一人ひとりから直接話を聞くのではなく、それらの話を解釈してビル・ゲイツにわかりやすく説明する「専門の説明係」を雇って、その人からだけ話を聞いていたという。
そうやってつねに同じ人の解釈や説明能力といった「一定のフィルター」を通して話を聞くことで、個々の社員の多様さに左右されない、安定した低コストで情報を収集していたということ。
非常に徹底しているし、合理的だと感じる。
そのまま自分に応用することはできないとしても、何かしらの似たような工夫で、普段感じている負荷を下げることはできるかもしれない、と感じた。
なお、この際、そのように物事を考えたり判断したりするリソースを「認知資源」と呼ぶこと、たとえばそれは朝、その日に着る服を選ぶときにも消費される資源であること、といった話も紹介されており、この「認知資源を無駄遣いしない」という考え方にも非常に共感を覚えた。
5. 英語・資格の勉強法
英語や資格の勉強をやろう、というときに、明確な目的がなければ達成は困難だという話。
むしろ、そうした勉強が長続きしなかったり、集中できなかったりするのは「勉強自体が目的になってるからでしょ」ということ。
もしちゃんと目的があって、勉強があくまでその「手段・経過」でしかないなら、そもそも集中できないとかあり得ないじゃん、みたいな。
これもまたわかりやすい。なるほど、目的がない(または弱い)から勉強が長続きしないのか、と。説得力がある。
と同時に、ぼくがたとえば英語や資格、あるいはプログラミングの勉強を中途半端にしかできないのは、それをチャラチャラしたファッションというか、アクセサリーのように身にまといたいからなのだ、とこの話を読んでほとんど初めて気がついた。
そして、それならぼくは今後もチャラチャラとした、目的にもなっていないような弱い目的をもってそれらに取り組もう、とも思った。
本書の主張に基づくなら、「英語ペラペラになりたい」などという願望は英語を勉強する目的になっていない。そこには曖昧なイメージ(雰囲気)があるだけで、具体的な「英語を使ってこれをしたい」という対象がないからだ。
しかし「ファッション(=自分を飾る道具)として英語を身につけたい」と考えるなら、それは充分に「目的」と言えるし、そこにはひとまず「こんなふうになりたい」というイメージがあればよい。
そして結局のところ、ある種の取り組みの成果を左右するのは、それを「続けるかどうか」に尽きる。
これまでぼくは、ただなんとなくそれらの勉強をしていたが、なるほど飾りとしてそれを身につけたいのか、と目的を意識化できた気がするので、今後はその目的に沿ってトライを続けてみたい。
7. 好きを仕事に
終盤で語られる、ある意味で身も蓋もない話。
ひと言で言うと、「集中できないとか悩む以前に、そもそも自然に集中できない仕事なんかするな」ということ。
それが本当に好きなことだったら、「どうしたら集中できるんだろう」なんて考えるまでもなく、あるいは誰かから言われるまでもなくそれに没頭してるだろ? という。
たしかにそうだ。返す言葉もない。そして著者は重ねて言う。
「自分が本当にやりたいことを見つけろ」
この辺りの話が猛然と語られる第6章は、他のどの章とも違う独特の面白さがある。
あまりに本質的で、それゆえ抽象的で、読みながらぼんやりしてしまう部分もあるのだけど、そのままふと立ち止まって、「好きなことか……ていうか、俺って何が好きだったんだっけ?」と胸のあたりを覗き込む、その感覚はけっこう久しぶりだと感じる。
そのまますべてを真に受けて、そうだそうだ! という感じでもないのだけど、それでも時々読み返したくなる話だと思う。
*
本書には他にもいくつもの「なるほど〜」があって、なかなか飽きない。
実践的だったり、抽象的だったり、マイクロソフト時代のような具体的な話もあれば、いきなり「界王拳」が飛び出したりもする。
個々のトピックが印象的なせいか、全体を通しての軸というか、大きな構造というのはちょっと見えづらいのだけど*3、上でぼくが自分なりの7点をピックアップしたように、読者それぞれが自分に必要な部分、役立つ知見を再構成しながら活かしていくことはできるだろう。
ちなみに、上で触れられなかった次点的なトピックを備忘録がてら書いておくと、「昼寝の有効性」「もしも編集者がこのメソッドを使うなら」「まず調べる」「予習勉強法」といったところか。
昼寝はぼくもよくやるし、本の編集は(曲がりなりにも)自分の仕事なのでそれもびっくりした。
「調べる」ことの意義、効果の高さについてはけっこうサラッと書いてあるのだけど、ちょっとすごみを感じる重要さだと思った。
という具合にネタは尽きないが、ひとまずここまで。